酵素反応の動的構造は、ミカエリス・メンテン理論に基づく方程式によって記述される。しかし、その方程式から酵素反応における原子のダイナミクスに関する情報はほとんど得られない。この度、クライオ電子顕微鏡を用いて、ほぼ原子レベルの分解能で「グルタミン酸デヒドロゲナーゼ」の反応の初期段階と定常段階の構造の解析が行われた。その結果、初期段階では、4つの準安定状態が異なるドメイン運動と補酵素/リガンドの会合様式が見出された。特に、従来の理論では単一状態として扱われてきた「酵素-補酵素-基質の複合体」が、少なくとも3つの異なる準安定状態から構成されていることが分かった。さらに定常段階では、7つもの準安定状態からなる複雑な反応経路が存在していた。
今回の研究チームの成果によって、水溶液中でのタンパク質の運動や機能発現過程を可視化する上でクライオ電子顕微鏡が威力を発揮し得ることが明らかとなった。今後、薬剤が酵素タンパク質に作用する過程を可視化できる可能性があり、AIを用いて、より詳細な酵素反応の構造実態を記述することができると期待されている。